# 64 なぜ日本では遺言書が広まらないのか  ―制度が「親切すぎる国」の落とし穴―

01相続・遺言

こんにちは。
神戸・西宮・尼崎・伊丹・宝塚・川西など、阪神地域を中心に活動している行政書士の小田晃司です。
遺言・相続といった「人生の終盤」に関わるご相談も日々お受けしています。

遺言・相続の話をしていると、よくこんな言葉を聞きます。

「うちは特別な財産もないし、遺言はいらないと思っていて」

実はこの感覚こそが、日本で遺言がなかなか普及しない最大の理由だと感じています。

2026年時点の調査や制度を踏まえると、日本には遺言を書かなくても“何となく回ってしまう仕組み”があり、それが結果として問題を先送りにしている側面があります。


日本には「遺言がなくても動く」強力な制度がある

結論から言うと、日本では
「遺言書がなくても、国が定めたルール(法定相続)が非常に強力で、自動的に機能する」
という特有の背景があります。

これが、遺言を書く動機を弱めている最大の要因です。

① 法定相続制度への「おまかせ」意識

日本の民法では、
「誰が」「どの割合で」相続するかが、あらかじめ細かく決められています。

さらに、日本では人が亡くなると、その瞬間に相続人へ権利が当然に移る仕組みになっています。

アメリカなどでは、亡くなった後に裁判所が関与する「遺産管理手続き(プロベート)」を経なければ財産は動きません。
一方、日本ではそうした手続きがなくても相続が始まります。

そのため、

  • 「法律通りに分ければいい」
  • 「わざわざ遺言を書かなくても大丈夫」

という意識が根強く残っています。
「遺言なし」がデフォルトになっている国、それが日本です。


② 遺言を書いても“自由にならない”遺留分制度

もう一つ、日本特有の制度が「遺留分(いりゅうぶん)」です。

遺留分とは、配偶者や子どもなど一定の相続人に、最低限保証される取り分のことです。

たとえば、

  • 「全財産を長男に」
  • 「面倒を見てくれた人に全部渡したい」

と遺言を書いても、他の相続人は遺留分を請求できます。

海外では「気に入らない子には一切相続させない」という遺言も可能な国がありますが、日本ではそうはいきません。

このため、

  • 「どうせ全部は決められない」
  • 「遺言を書いても意味が薄いのでは」

と感じてしまう方も少なくありません。


③ 心理的・文化的な壁

直近の調査を見ると、
日本人が遺言を書かない理由として、特に多いのが次の2つです。

「うちは資産が少ないから」

相続=お金持ちの問題、という誤解は非常に根強いです。

しかし、現場で多いのは
「自宅しか財産がない家庭」で起きる相続トラブルです。

不動産は簡単に分けられず、売るか・住み続けるかで意見が割れます。
資産額の大小に関係なく、揉める要素は十分にあります。

それでも、「自分には関係ない」という心理が、遺言作成のハードルになっています。

「まだ元気だから」

もう一つ多いのがこの理由です。

日本では、死を連想させる行為を避ける文化が強く、
「そのうち」「もう少し先で」と先送りにされがちです。

結果として、

  • 認知症で判断能力を失う
  • 病気や事故で突然意思表示ができなくなる

こうしたケースで、「書きたくても書けなかった」という事態が起きています。


④ 形式の厳しさと手間の問題

制度面でも、遺言はハードルが高いものでした。

自筆証書遺言のリスク

自分で書く遺言は、
日付や署名、書き方を少し間違えるだけで無効になる可能性があります。

「書いたつもり」が、実際には使えない――
これが長年の問題でした。

公正証書遺言の心理的ハードル

確実な方法である公正証書遺言は、

  • 専門家への費用が高額
  • 公証役場への出向
  • 証人の手配

といった負担があり、
「そこまでしなくても…」と敬遠されがちです。


それでも、状況は少しずつ変わっている

一方で、国も手を打ち始めています。

自筆証書遺言書保管制度(2020年〜)

法務局が遺言を保管してくれる制度が始まり、

  • 紛失・改ざんの防止
  • 家庭裁判所での検認が不要

といったメリットが生まれました。

「自分で書く遺言」のリスクは、以前より確実に下がっています。

デジタル遺言の議論(2026年現在)

現在、スマホや電子データで遺言を作成できる
「電子遺言」の法整備も検討段階に入っています。

もし実現すれば、
現役世代や若い世代にも遺言が身近になる可能性があります。

私は個人的にはまだ時間がかかると思っていますが。。。


遺言が必要かどうかは「家庭ごとに違う」

日本で遺言が普及しないのは、
「日本人が無関心だから」ではありません。

むしろ、

  • 制度が親切すぎる
  • 何となく回ってしまう
  • 問題が見えにくい

この構造そのものが原因だと感じています。

ただし、
子どもがいない
不動産がある
再婚している
相続人同士の関係が微妙

こうした事情が一つでもあれば、
「法定相続に任せること」が最善とは限りません。


最後に

遺言は、
「財産の話」であると同時に、
家族へのメッセージでもあります。

必要かどうかは、人それぞれです。
でも、「考えないまま迎える相続」が、
一番リスクが高いことだけは、現場で何度も見てきました。

もしご自身の状況で
「遺言が必要かどうか分からない」
そう感じたら、その段階で十分です。

一緒に整理するところから、お手伝いしています。


 

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