令和8年(2026年)8月4日、出入国在留管理庁は「永住許可に関するガイドライン改定案」を公表し、パブリックコメント(意見募集)を開始しました。
永住許可は、外国人が日本で生活していく上で最も安定した在留資格であり、多くの方が取得を目指しています。
今回公表された改定案では、従来から存在していた
- 素行が善良であること
- 独立の生計を営むことができること
- 永住が日本国の利益に合すると認められること
という法定要件自体は変更されません。
しかし、それらをどのような基準で判断するのかについて、大幅な見直しが行われています。
永住許可を目指す外国人の方はもちろん、企業の人事担当者や外国人支援に携わる方にとっても非常に重要な改定となるため、その内容を行政書士の視点から分かりやすく解説します。
改定の背景
今回の改定は、政府が進める
「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」
の一環として行われるものです。
日本では外国人労働者やその家族が増加し、永住許可申請件数も年々増えています。
その一方で、
- 永住許可取得後に生活保護を受給するケース
- 日本語能力が十分ではないケース
- 税金や社会保険料の未納
- 子どもの不就学
などが社会問題として指摘されるようになりました。
そのため、
「日本社会の一員として、将来にわたり安定した生活を送ることができるか」
という視点をより明確に審査へ反映させようというのが、今回の改定の目的です。
適用時期に注意
今回の改定案は、現時点では正式決定されたものではありません。
現在、パブリックコメントが実施されており、その内容を踏まえて正式決定される予定です。
適用時期については、
- 原則:令和9年(2027年)4月施行予定
- ただし収入に関する要素のみ、令和8年(2026年)10月から先行適用予定
となっています。
つまり、
今年中に永住申請を予定している方でも、申請時期によって収入審査の基準が変わる可能性があります。
この点は実務上、非常に重要です。
永住者は「最も安定した法的地位」であることを明文化
今回初めて、
永住者は
活動・期間の制限がなく、生涯を日本で過ごすことが想定される最も安定した法的地位
であることがガイドラインに明記されました。
そして、
「そのため特に慎重な審査を行う必要がある」
という考え方も追加されています。
つまり、
「長く住んでいるから永住を認める」
という制度ではなく、
将来にわたり日本社会の一員として生活することを前提とした制度
であることが、これまで以上に明確になりました。
① 収入要件がより具体化される
従来も「独立生計要件」は存在していました。
しかし今回の改定では、
現在だけでなく将来にわたり、
日本人と同等以上の生活水準
を維持できることが求められると明記されています。
収入については、
世帯人数に応じた
日本人世帯の平均収入を上回る水準
を継続して維持しているかが判断されます。
また、
資格外活動により得た収入など、
本来の在留目的と異なる収入については、
原則として世帯収入に算入しないことも示されています。
② 将来受け取る年金も審査対象に
今回最も注目される改正の一つが、
将来受け取る年金まで審査対象になること
です。
現在の年収だけではなく、
これまでの年金加入期間や収入などから推計される
将来の年金受給見込額
も考慮されます。
もっとも、
年金額が一定水準に満たない場合でも、
十分な金融資産がある場合には、それも考慮されるとされています。
つまり、
老後まで含めて日本で安定した生活を送れるかが審査されることになります。
③ 日本語能力(CEFR B1相当)
今回初めて、
CEFR B1相当
という具体的な水準が示されました。
B1とは、
日常生活や職場で必要となる日本語を、
自立して使用できるレベルを指します。
もっとも、
これは一律の絶対条件ではなく、
高度専門職や日本で一定期間教育を受けた方などについては例外も予定されています。
したがって、
「B1がなければ永住できない」
というものではありません。
④ 日本の制度やルールへの理解
日本語能力だけではありません。
今回の改定では、
日本の制度や生活ルールへの理解も審査対象になります。
例えば、
- 税制度
- 年金制度
- 社会保険制度
- 災害時の対応
- ごみの分別
- 地域社会のルール
などについて、
一定の理解が求められる方向となっています。
理解が著しく不足している場合には、
審査上、消極的に評価される可能性があります。
⑤ 子どもの就学状況
義務教育年齢の子どもを養育している場合、
適切に学校へ通わせているかも評価対象になります。
正当な理由なく就学させていない場合には、
永住許可の審査でマイナス評価となる可能性があります。
⑥ 「日本国の利益」の考え方も具体化
法律では、
永住は
「日本国の利益に合すると認められること」
とされています。
今回の改定では、
この抽象的な要件についても具体例が示されました。
例えば、
- 税金
- 年金
- 社会保険
- 入管法上の各種届出
などを適切に行っているかが重要な判断材料となります。
また、
公共の負担となるおそれが現実的にある場合には、
マイナス評価となることも明記されています。
⑦ 日本人・永住者の配偶者特例が厳格化
実務への影響が特に大きい改正です。
これまで、
日本人又は永住者の配偶者については、
- 婚姻3年以上
- 日本在留1年以上
で永住申請が可能でした。
しかし改定案では、
- 婚姻5年以上
- 日本在留3年以上
へ変更される予定です。
国際結婚をされている方にとっては、
永住取得までの期間が大きく延びることになります。
行政書士として特に注目している点
今回の改定を見て、
私が特に影響が大きいと感じるのは、
「収入」よりも「年金」と「配偶者特例」です。
年収は転職や昇給などで改善できる可能性があります。
しかし、
年金加入期間は短期間で増やすことができません。
また、
配偶者特例についても、
婚姻期間そのものを短縮することはできません。
つまり、
これらは
「申請直前に対策できるものではない」
という点が重要です。
永住を考えている方ほど、
数年前から準備を始める必要があります。
今後気になる実務上の論点
改定案では方向性は示されていますが、
実務上はまだ明らかになっていない点もあります。
例えば、
- B1はどの試験で証明するのか
- 制度理解は試験になるのか
- 日本人平均収入はいくらを基準とするのか
- 年金見込額はどのように算定するのか
- 金融資産はいくらあれば補完できるのか
などです。
今後、公表される正式なガイドラインや運用通知を注視していく必要があります。
まとめ
今回の改定案を一言で表現するなら、
「長く日本に住んでいること」から、「将来にわたり日本社会の一員として安定した生活を送れること」へ、永住許可制度の考え方が大きくシフトした改定と言えるでしょう。
もっとも、今回示された内容の多くは、許可・不許可を機械的に決める絶対的な条件ではなく、総合判断における考慮要素として位置付けられています。
したがって、「日本語能力がB1に達していないから直ちに不許可」「平均収入を下回るから必ず不許可」といった単純な運用になるわけではありません。
一方で、永住許可を目指す方にとっては、
- 納税・社会保険料の納付
- 年金加入状況
- 安定した収入
- 日本語能力
- 日本の制度やルールへの理解
- 子どもの就学状況
などを日頃から意識して生活することが、これまで以上に重要になります。
正式なガイドラインや今後の運用通知も継続して確認し、永住許可制度に関する最新情報を分かりやすく発信してまいります。
※本記事は、令和8年(2026年)8月4日に出入国在留管理庁が公表した「永住許可に関するガイドライン改定案」に基づいて執筆しています。現時点では改定案であり、今後のパブリックコメントの結果等により内容が変更される可能性があります。

