#70 在日韓国籍の方へ ― 日本で生きてきたからこそ、遺言が本当に大切になる理由 ―

01相続・遺言

こんにちは。
神戸・西宮・尼崎・伊丹・宝塚・川西など、兵庫県阪神地域を中心に活動している行政書士の小田晃司です。
在留資格(ビザ申請)だけでなく、相続・遺言といった「人生の終盤」に関わるご相談も日々お受けしています。

今日は、在日韓国籍の方にこそお伝えしたい相続の話です。

制度の条文解説というより、
現場で実際に起きている“現実”についてお伝えします。


日本で暮らしていても、相続は「韓国法」が基準になります

まず重要なポイントです。

日本の「法の適用に関する通則法」により、相続は原則として被相続人の本国法が適用されます。

つまり、韓国籍の方が亡くなった場合、原則として韓国民法が基準になります。

しかし、ここで実務上非常に重要な点があります。

■ 公正証書遺言で「日本法に準拠する」と明記するという選択

公正証書遺言において、
「本遺言は日本法に準拠する」旨を明確に記載することで、

その公正証書を拠り所として、
日本の民法に基づいた相続手続きを進めることができます。

実務では、この一文があるかどうかで、
手続きの進み方が大きく変わります。

何も準備をしていない場合と、
日本法準拠を明示した公正証書遺言がある場合とでは、

残された家族の負担はまったく違います。


「戸籍がない」という本当の意味

よく「外国籍の方には日本の戸籍がありません」と言いますが、
正確に言えばこうです。

日本の相続実務で判断基準となる
“戸籍と同等の形で家族関係を一元的に証明できる資料”が存在しない場合がある、ということです。

日本で婚姻届を出していれば届出記載事項証明書はあります。
過去には外国人登録原票の記録もありました。

また、韓国には家族関係登録制度があります。

しかし、日本の戸籍のように、
日本の実務がそのまま前提にできる形で
家族関係を完結的に証明できるとは限りません。

そのため相続の場面では、

・韓国の家族関係登録簿の取得
・日本の記録との照合
・日本語翻訳の添付

といった追加の作業が必要になります。

ここが実務上、大きな負担になります。


さらに問題になる「そもそも登録されているのか?」という点

ここが実務上、非常に重要です。

相続手続きでは韓国の家族関係登録簿を取得します。

しかし、そこで初めてこうした問題に直面することがあります。

・日本の市役所には婚姻届を出したが、韓国大使館や総領事館に届け出ていない
・子どもの出生を本国に届け出ていない
・離婚の情報が本国に反映されていない

つまり、

韓国の家族関係登録簿に、現実の家族関係が正しく反映されていない

というケースです。

在日韓国人の方からすれば、日本で生まれて、日本で教育を受けて、日本で働いてきたわけです。
結婚した時も、日本の役所に届出を出しています。

「韓国領事館にまで婚姻届など出してないよ。」

本当によく聞く話です。団塊の世代の方は特に多いのではないでしょうか。

普段の生活では何も問題はありません。

しかし相続では、本国法に基づき相続人を確定する必要があります。

そのとき、

・登録が存在しない
・記載が古い
・手続きが未了

という状況だと、追加の届出や訂正手続きが必要になることもあります。

時間も労力もかかります。

極端な例ですが、長年連れ添った夫婦であっても、
書類上の証明が整っていなければ、その関係を直ちに証明できないという事態も起こり得ます。

そしてその対応をするのは、残された高齢の配偶者や子どもたちなのです。


日本と韓国で違う「遺留分」のルール

さらに遺留分の考え方も違います。

日本では現在、兄弟姉妹には遺留分はありません。

しかし韓国民法では、

・直系卑属(子)
・配偶者
・直系尊属(親)
・兄弟姉妹

にも遺留分が認められる場合があります。

日本の感覚で遺言を書いてしまうと、後に調整が必要になる可能性があります。

ここは専門的な検討が必要な部分です。


朝鮮籍の方の場合

なお、朝鮮籍の方の場合はさらに慎重な判断が必要です。

・韓国の家族関係登録簿が存在しないケース
・準拠法の解釈がより複雑になるケース

があり、個別事情による検討が不可欠です。


もし公正証書遺言がなかったら

誰かが亡くなると、日本人と同じくその故人の銀行口座は凍結されます。
不動産があれば、相続登記も義務化されているため手続きが必要です。

そのために、相続人全員で遺産分割協議を行うことになります。

その上で、

・韓国の家族関係登録簿の取得
・相続人全員分の証明書の収集
・日本語翻訳
・日本の銀行や法務局への提出

が必要になります。

さらに、

・韓国に住んでいる親族がいる
・連絡が取りづらい相続人がいる

といった事情が重なると、何か月も手続きが止まることもあります。

銀行口座は凍結されたままです。
不動産も動きません。

そして何より、

残された家族が「何から始めればよいのか分からない」状態になります。

争いがなくても、事務は極めて重いのです。


公正証書遺言が持つ意味

公正証書遺言があれば、

・分け方が確定している
・遺産分割協議書の作成(証明書の収集)が不要になる
・銀行手続きがスムーズに進む

という大きな違いが生まれます。

外国籍の相続では特に、「誰が相続人か」の証明で手続きが止まることが多いのです。

公正証書遺言は公文書です。
生前に作成しておくことで、残された家族はその公文書をもとに、手続きを円滑に進めることができるのです。

それだけで、家族の負担は大きく軽減されます。


日本で生きてきたからこそ

団塊の世代の在日韓国籍の多くの方は、日本で生まれ、働き、家族を築いてきました。

だからこそ、最後の場面で制度の違いに振り回されてほしくありません。

遺言は財産分けのためだけのものではありません。

残された家族を、
手続きの迷路から守るための、最後の思いやりです。

もし、

・本国登録を確認したことがない
・国際結婚をしている
・日本に不動産がある

こうした事情があるなら、

遺言は「そのうち」ではなく、「今」考えるテーマです。

知らなかったことで困らないように。
そして、知っているからこそ静かに備えられるように。

在日韓国籍として日本で生きてきた方にこそ、
公正証書遺言を強くおすすめします。

【参考】

遺言をどう切り出せばよいのか、
家族としてどう向き合えばよいのかについては、拙著

『あなたは親に「遺言を書いてほしい」と言えますか?』

でも詳しく書いています。

もしご関心があれば、参考になさってください。

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