こんにちは。行政書士の小田晃司です。
前回の「家族信託② 安心の仕組み編」では、信託監督人などの“見守りの仕組み”や、公正証書の重要性についてお話ししました。
最終回となる今回は、家族信託を実際に公正証書で作成する手順と費用、そして行政書士がどのようにサポートできるのかについて、実務の流れに沿って解説します。
公正証書で作る家族信託──なぜここまで重要なのか?
家族信託契約は、紙にサインして終わりではありません。
せっかく信頼をベースに作る契約だからこそ、「誰が読んでも、法的に確実で、安心できる形」にしておく必要があります。
その最も確実な方法が、公正証書による作成です。
公正証書にする3つの大きなメリット
- 法的効力が強く、安心できる
公証人(元裁判官や検察官など)が契約内容を確認し、法的に有効な文面を保証してくれます。 - 社会的信用が高い
銀行や不動産会社も公正証書を前提に手続きを進めるため、信託の実行がスムーズになります。 - 改ざん・紛失の心配がない
原本が公証役場に保管されるため、紛失や書き換えのリスクがなく、将来のトラブルを防げます。
公正証書家族信託の作成手順
家族信託を契約書として作るには、大きく分けて6つのステップがあります。
| ステップ | 内容 | 主な関係者 |
|---|---|---|
| ① ヒアリング・設計 | 財産の内容、目的、関係者の希望を整理 | 行政書士・家族 |
| ② 信託スキームの構築 | 誰が受託者・受益者になるかを決め、流れを図式化 | 行政書士 |
| ③ 契約書ドラフト作成 | 行政書士が信託契約書の文案を作成 | 行政書士 |
| ④ 公証役場との事前調整 | 内容確認・手数料見積もり・日程調整 | 行政書士+公証人 |
| ⑤ 公正証書作成・署名押印 | 委託者・受託者・公証人が立会いのもと契約締結 | 公証役場 |
| ⑥ 信託登記・実務運用 | 不動産信託登記・口座開設・管理運用の開始 | 行政書士・司法書士 |
行政書士が果たす役割
行政書士は、単なる「書類作成者」ではありません。
家族信託全体の設計士であり、ナビゲーターとして次のような支援を行います。
- ご家族の状況や財産構成をもとに信託スキームを設計します
- 契約書・付属書類(財産目録など)を作成します
- 公証役場とのやり取りや日程調整を行います
- 信託後の運用や報告体制の構築を支援します
- 遺言・後見・保険を組み合わせたトータル設計を行います
家族信託だけでなく、遺言や後見、保険をどう組み合わせるかまでを考え、
ご家族に最適な“安心の仕組み”を設計するのが行政書士の大切な役割です。
費用の目安(一般的な実務水準)
家族信託は内容によって大きく異なりますが、一般的な費用感は次のとおりです。
| 項目 | 内容 | 費用の目安(税別) |
|---|---|---|
| 信託設計・契約書作成 | ヒアリング・文案作成・公証準備 | 150,000〜250,000円 |
| 公証役場手数料 | 信託財産額に応じて変動 | 約50,000〜100,000円前後 |
| 登記関連費用(不動産がある場合) | 司法書士報酬+登録免許税 | 約100,000円〜 |
| 合計目安 | 一般的な信託1件 | 約30〜45万円程度 |
※信託財産が大きい場合や、複数の不動産を含む場合は別途お見積もりとなります。
家族信託に適しているケース
| ケース | 信託が有効な理由 |
|---|---|
| 親が高齢で財産管理を子に任せたい | 後見制度より柔軟で、家族が管理しやすい |
| 認知症になる前に管理の準備をしたい | 判断能力があるうちに契約できる |
| 不動産を売却・運用して生活資金を確保したい | 委託者の意向どおりに受託者が実行できる |
| 障がいのある子に財産を残したい | 子の生活を支えるための信託管理が可能 |
| 家族間で相続トラブルを避けたい | 契約で分担・役割を明確化できる |
家族信託と遺言・保険・後見制度の連携
家族信託は「万能」ではありません。
信託は生前の管理を支える仕組みであり、死後の分配には遺言の活用が欠かせません。
さらに、保険を活用すれば「お金を残す仕組み」が作れ、
後見制度は「判断力を失ってからの補助」として機能します。
これらを組み合わせることで、生前から死後まで一貫した安心設計が可能になります。
行政書士として、これらを一体的にデザインする「終活設計パートナー」として寄り添います。
公正証書作成の流れ(実務イメージ)
- 初回相談・ヒアリング(無料)
財産の内容、希望、家族構成を確認します。 - 設計提案・見積提示
最適なスキームと費用を提示し、合意後に着手します。 - 契約書案の作成と修正
ご家族と確認しながら文案を整えます。 - 公証役場との調整
公証人との事前打ち合わせや書類確認を行います。 - 公正証書作成・署名押印
委託者・受託者が公証役場で契約を締結します。 - 信託登記・運用開始
不動産登記・口座開設・運用開始までをサポートします。
まとめ──信頼を“契約”に変え、安心を未来へ
家族信託は「信頼できる家族に財産を託す」ための制度ですが、
その信頼を社会的に通用する形に変えるのが公正証書です。
行政書士が間に入ることで、制度を正しく理解し、家族の想いに沿った設計を実現することができます。
📘 シリーズまとめ
| 回 | テーマ | 内容 |
|---|---|---|
| 家族信託① | 基本構造編 | 家族信託の仕組みと意義をわかりやすく紹介 |
| 家族信託② | 安心の仕組み編 | 信託監督人や公正証書による信頼性の確保 |
| 家族信託③ | 公正証書と専門家サポート編 | 実務の手順・費用・行政書士の関わり方 |

