こんにちは。行政書士の小田晃司です。
前回の「家族信託① 基本構造編」では、家族信託が「家族の信頼を契約で守る仕組み」であることをお伝えしました。
今回はその続きとして、“安心して運用できる家族信託”を実現するための仕組みについて解説します。
現実と法律のギャップ──家族が「勝手に」お金を動かしている?
多くのご家庭で、「親の通帳を娘が預かっている」「息子がATMでお金を引き出している」というケースがあります。
実際には、銀行もある程度黙認しているのが現状です。
しかし、法律上は本人以外の引き出しや契約はできないことになっています。
たとえば次のような場合です。
- 親が入院したとき
- 認知症が進んで署名ができなくなったとき
- 不動産を売却して介護資金を確保したいとき
このような場面では、「法的な代理権」がないと手続きが止まってしまいます。
そこで、この“法の壁”を現実的に乗り越える方法として注目されているのが、家族信託です。
家族信託の基本の3人──委託者・受託者・受益者
家族信託は、次の3つの立場で構成されています。
| 立場 | 役割 | 具体例 |
|---|---|---|
| 委託者 | 財産を託す人 | 親 |
| 受託者 | 財産を管理・運用する人 | 子ども |
| 受益者 | 財産から利益を受ける人 | 親本人 |
つまり、親が「自分の財産を息子に預け、息子が管理し、親自身がその利益を受け続ける」という形です。
この仕組みによって、親の判断力が低下しても、家族がスムーズに財産を守り続けることができます。
信託監督人とは──“見守り役”を置くことで安心を補強
家族信託では、必要に応じて信託監督人という第三者を置くことができます。
信託監督人の役割は、受託者(財産を預かる人)が「受益者のために」契約どおりに財産を正しく管理・運用しているかをチェックすることです。
この“見守り役”を設けることで、家族間の信頼関係を制度として補強することができます。
ただし、信託監督人を置くかどうかは任意であり、信託の内容や家族構成によって決めることができます。
信託監督人が不要なケース
- 受益者(親)がしっかりと判断できる場合
- 委託者=受益者(自益信託)の場合(自分の財産を自分のために信託するケース)
このような場合は、本人自身が信託をチェックできるため、信託監督人を置く必要はありません。
信託監督人を置くと安心なケース
- 受益者が高齢・認知症・障がいなどで判断が難しい場合
- 信託財産の金額が大きい場合や、複数の家族が関係している場合
- 受託者(子ども)と他の兄弟姉妹・親族との間で、透明性を確保したい場合
このようなケースでは、専門家(行政書士・司法書士・弁護士など)を信託監督人として選任することで、
「契約どおりに公正に運用されている」という信頼性が高まります。
“信頼”だけでは守りきれない現実を、制度で支える
家族の間に信頼があることはもちろん大切です。
しかし、財産管理の世界は「感情」ではなく「手続き」で動いています。
たとえば、
- 子どもが善意で管理していても、他の兄弟が「勝手にやっている」と感じることがある
- 通帳を預かっているだけでは銀行が対応してくれない
- 不動産の登記や契約行為は、法律上“本人”しかできない
こうしたトラブルを防ぐためには、「家族信託」という法的に有効な契約が必要です。
そして、その信託を“安心”にするのが、信託監督人や専門家の存在なのです。
家族信託の実務的な安心を生む「公正証書」という選択
家族信託契約は、公正証書で作成するのが断然おすすめです。
理由は次の3つです。
- 法的効力が強い
公証人が内容を確認するため、文面の不備や誤解が起こりにくくなります。 - 社会的信頼性が高い
銀行や不動産取引の場では、民間の契約書よりも信用されやすいです。
特に、多くの金融機関では信託口口座を開設する際に公正証書を必須条件としているため、実務上ほぼ必須といえます。 - 改ざん・紛失のリスクがない
原本が公証役場に保管されるため、万一のトラブルにも対応できます。
家族信託は「信頼」で成り立つ制度ですが、その信頼を確実に守るためには“公正証書”という法的な裏付けが欠かせません。
まさに、公正証書は「信頼を守る最強の盾」といえます。
家族信託を安全に運用するためのポイント
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 契約内容を明確にする | 財産の範囲・目的・期間を具体的に書くことが大切です。 |
| 監督の仕組みを作る | 信託監督人や定期報告を設定しておくと安心です。 |
| 公正証書にする | トラブルや改ざんを防ぎ、金融機関にも通用する形にします。 |
| 専門家を入れる | 行政書士などが契約・運用をサポートします。 |
行政書士ができるサポート
行政書士として、私は次のようなサポートを行っています。
- ご家族の希望を伺いながら、最適な信託の形を設計します
- 契約書の作成や公証役場との調整を行います
- 受託者や信託監督人の選び方についてサポートします
- 契約後も、定期的な報告や運用サポートを行います
家族信託は、一度作って終わりではありません。
運用が始まってからこそ、家族の生活と信頼を支える「実践の制度」としての力を発揮します。
まとめ──「想い」を制度で守る、それが家族信託
家族信託は、「家族を信頼して任せる」という気持ちを、法的に安心できる形にする制度です。
そして、公正証書や専門家の関与によって、その信頼を“社会的に通用する契約”に高めることができます。
📘 次回予告(家族信託③ 公正証書と専門家サポート編)
次回は、公正証書で信託契約を作成する具体的な流れや、
行政書士がどのように支援するのかを、実際の手続きに沿って解説します。

