こんにちは。神戸・西宮・尼崎・伊丹・宝塚・川西など、兵庫県の阪神地域を中心に活動している行政書士の小田晃司です。
相続や遺言、公正証書、そして家族信託などを通じて、「家族の想いを形にする」お手伝いをしています。
「お母さんの通帳、私が預かってる」──どの家庭にもある現実
ご相談の中で最も多いのが、
「母の通帳を私が預かって、生活費の支払いをしています」というお話です。
親が高齢になり、銀行や役所の手続きが難しくなると、
自然と娘さんや息子さんが代わりにお金の管理をするようになります。
実際、銀行もそのようなケースを黙認しているのが現状です。
ただし、これはあくまで“便宜的な対応”であり、
法的には本人以外の引き出しや契約は認められていません。
法律の壁──本人じゃないとできないこと
日常の支払いであれば、家族が代わりに行っても問題になることはほとんどありません。
しかし、次のような場面では「家族でも手続きが止まる」ことがあります。
- 銀行口座の名義変更や解約
- 不動産の売却・契約
- 介護施設の入居契約や資産の処分
- 生命保険・年金などの請求手続き
これらはいずれも本人の署名・押印が必要な手続きです。
たとえ家族であっても、「本人に代わって契約する」ことはできません。
この「家族の常識」と「法律の現実」のギャップこそ、
多くの家庭が将来直面する課題なのです。
「後見制度」との違い──裁判所の関与と柔軟性
この問題を解決する代表的な制度が「成年後見制度」です。
家庭裁判所が後見人を選任し、財産を管理する仕組みになっています。
| メリット | 注意点 |
|---|---|
| 法的効力が強く安心 | 裁判所の監督が厳しく柔軟な運用が難しい |
| 第三者後見人の就任でトラブル防止 | 親族でも裁判所への報告義務がある |
| 判断力低下後でも利用できる | 手続き開始まで時間と費用がかかる |
つまり、「安心ではあるが自由度は低い」制度です。
家庭裁判所が関与するため、日常の支払いや契約でも細かく報告・許可が必要になることがあります。
家族信託とは──家族の信頼を契約で形にする仕組み
家族信託とは、
親が自分の財産を信頼できる家族(たとえば子ども)に託して管理をお願いする契約のことです。
構成は次の三者で成り立っています。
- 委託者(親):財産を託す人
- 受託者(子ども):財産を預かって管理する人
- 受益者(親):その財産の利益を受ける人
たとえば、
「母(委託者)が息子(受託者)に自宅や預金を管理してもらい、母自身(受益者)がその利益を受け続ける」
という形です。
信託財産の範囲──できること・できないこと
信託できる財産は多岐にわたります。
自宅・アパート・預金・有価証券など、経済的価値を持つ財産は基本的に対象となります。
ただし、年金受給権や身分に関する権利(例:扶養請求権など)といった「一身専属的な権利」は信託できません。(ただし、既に本人の口座に振り込まれて金銭となった年金は、信託財産とすることができます。)
“家族の合意”を“法的な契約”に変える
家族信託の本質は、「信頼関係を法律の力で守る」ことにあります。
「お母さんの口座は私が管理しておくね」という合意だけでは、法的効力がありません。
しかし、それを正式な信託契約として残すことで、次のような効果が生まれます。
- 銀行手続きが止まらない
- 不動産の管理・処分がスムーズに進む
- 家族間のトラブルを防止できる
つまり、家族信託は「いざというときに手続きが止まらない」ようにするための、
家族のための安心設計なのです。
家族信託でできること・できないこと(改訂版)
| 項目 | 家族信託でできる | できない・注意点 |
|---|---|---|
| 銀行口座・預金の管理 | 〇 | – |
| 不動産の売却・契約 | 〇 | – |
| 介護費・生活費の支払い | 〇 | ※医療契約や施設入居契約など「身上監護」は不可 |
| 相続手続き(死後の分配) | △ | 信託終了時の定めにより二次相続以降の承継先指定が可能。ただし遺言併用が確実です。 |
| 法人との取引・大規模運用 | △ | 設計によります。専門家の関与が望ましいです。 |
| 判断力を失った後に開始 | ✕ | 後見制度が必要です。 |
家族信託は「生きている間」を守る制度
遺言が「亡くなった後の備え」であるのに対し、
家族信託は「生きている間の安心」を支える制度です。
判断力があるうちに信託契約を結んでおくことで、
その後に体調が悪化したり、認知症が進行したとしても、
家族が迷わずに生活を支え続けることができます。
まとめ──家族信託は「家族の想いを守る契約」
家族信託は、
「親の想い」と「子の安心」を両立させるための新しい仕組みです。
裁判所の関与が必要な後見制度よりも柔軟で、
家族の合意を法的に守ることができます。
ただし、信託契約の内容が曖昧なままだと、逆にトラブルの原因になることもあります。
次回の「家族信託② 安心の仕組み編」では、
契約を安全に運用するためのルールや、
「信託監督人」などの見守りの仕組みについて詳しく解説いたします。


